にほんごぱーく NIHONGO PARK

日本語とお散歩の記録です

談話練習・練習Cのやり方

導入やドリルが終わったあと、『みんなの日本語』で言えば練習Cを行うと思います。呼び方は学校や機関によっていろいろあると思いますが、ここでは「談話練習」と呼ぶことにします。

『みんなの日本語』の本冊の冒頭に以下のような記述があります。

練習Cは文型が実際にどのような場面、状況の中で、その機能を果たすかを学び、発話力につなぐための短い会話ドリルである。単にリピートするだけでなく、モデル文の代入肢を変えたり、内容を膨らませたり、さらには場面を展開させたりする練習を試みてほしい。

『みんなの日本語 初級Ⅰ 本冊』

(;・∀・)言わんとすることはわかる…でも、どうやっていいのやら。

いろいろなやり方はあると思いますが、もうちょっと掘り下げてやってみたいですよね。先生方向けに模擬授業をやったので、それを含めて談話練習の方法を紹介したいと思います。

談話練習の位置づけ

談話練習の具体的な内容に入る前に、談話練習が授業のどの段階に位置するのかを明確にしておきます。『みんなの日本語』のオーソドックスな流れに合わせると、次の位置になります。

導入 → 文型整理 → ドリル・練習→談話練習

つまり、理解し、言い回しに慣れるところが終わって、「文脈の中で使える」ようにしましょうという段階です。「文脈の中で使える」…これが談話練習の目的です。それを踏まえて、進め方を見ていきたいと思います。

談話練習の基本的な流れ

『みんなの日本語』で言えば、練習Cということで進めていきますが、「談話練習=練習Cを使わなければならない」ということではありません。「使いにくい」「場面がわかりにくい」「目の前の学習者に合っていない」ということであれば、ぜひ自分で作ってください!

ただし、まだ自信が無い方、時間がない方、不精な方(笑)は、練習Cを使うとよいです。教科書にも絵がありますし、『みんなの日本語1 教え方の手引き/2  教え方の手引き』に付属しているCD-ROMにも入っています。使えるものは使うという考えも良いのです!(^O^)

さて、基本的な流れは以下のとおりです。

  1. 絵を提示して、場面を確認・説明する。
  2. 絵から会話内容を推測させる。
  3. モデル会話を提示する。話の進め方や表現の確認をしてから、リピートする。
  4. 2~3つの練習問題を行う。
  5. モデルをベースに会話を発展させる。
  6. 発表・フィードバック
  7. 発展のさせかたの例(第38課の練習C2)

くわしく見ていきます。


1)絵を提示して、場面を確認・説明する。

会話は唐突には始まりません。場面があって、初めて言いたいことや会話が発生します。ですから、まず場面の確認をします。

どこで話しているのか(職場?学校?道端?)、誰と誰が話しているのか(わたしと教師?上司?後輩?友達?知らない人?)、どんな状況なのか(雑談?依頼?断る?喜怒哀楽は?)などです。

絵を見せながら、学習者に問いかけてもいいですし、解説しても良いでしょう。


2)絵から会話内容を推測させる。

場面を理解したあと、練習Cの画像を見せます。冒頭の絵のような感じです。

ここで教科書は閉じておきます。なぜなら、絵から話を推測させるからです。

実際の会話では、自分で何を言うか考えて、自分が今言える言葉・表現で、自分の口から伝えていかなければなりません。答えなんて1つじゃありません。「自分で」という要素を授業にも取り入れなければ、「話せる」ようにはなりません。

また、会話はパッと言えることが重要なので、ここで長々と考える時間を与える必要はありません。わたしは1分しか与えません。テンポよく行きましょう!

その後、いくつかのペアに発表してもらいます。モデル通りでなくてもいいので、場面にあっていて、スムーズならそれで良しとしましょう。


3)モデル会話を提示する。話の進め方や表現の確認をしてから、リピートする。

(2)では、良いものもあれば、推測が及ばないものもあると思います。ですので、ここで一旦モデル会話を提示します。間違いのない流れを見せるためです。ただし、「これが絶対的に正しい」というふうには教師側も学習者側も思わないようにしなければなりません。(2)の活動が死にます!(笑)

学んだ文型を自然な流れでどう使うかを見せたり、話の進め方(前置きがある、最後にお礼を言う等)、フィラーやあいづち、応答、文末表現など会話ならではの要素を確認しましょう

それから、一度モデルをリピートします。会話が苦手な人はまず覚えることで、このあとの練習への安心感にも繋がりますが、「覚えなさい」とは言いません。口慣しをテンポよくしながら、染み込んでいく感じでやりましょう。

リピートも細かい段階を踏みます。

1.教師の発話に続いて、全員でA→B→A→B。
2.AとBに分けて、教師の発話に続いて各自担当箇所を言う。
3.教師の発話なしにして、思い出しながら各自担当箇所を言う。
4.隣の人と確認する。(2番で隣同士をAとBにしておくといい)
5.逆パートにして、2~4番を行う。

上にスライドのサンプルを載せましたが、1・2・4番は絵のみを示します。3番は、少しだけヒント(文の空欄)を与えながら、徐々に減らしてスムーズに言えるようにしていきます。

どのくらいヒントを与えるかは学習者のレベルによって変えてみてください。注意する点は「読ませるのではない」ということです。思い出すための手助けであることを忘れないでください。


4)2~3つの練習問題を行う。

練習Cは例題以外の問題があります。初級1では3問、初級2では2問あります。

絵を見せて、会話を練習させましょう(文字は不要)。考えて言う必要はありますが、基本はモデルに合わせれば言えることです。ここはサラッと行いましょう。

私は各問に1分の制限時間を設けます。2問ある場合は、それぞれを1分で練習させたあとに、発表の時間を設けます。複雑なことはないので、全員の発表は不要です。そのかわり、机間巡視は1分の間にして、困っていないか、言えているかどうか見ましょう。


5)モデルをベースに会話を発展させる。

ここが一番大切です!ここに行くまでが長いと感じたかもしれませんが…(;・∀・)

「話せる」という実感を得てもらうのはここからです。会話はモデルのとおりに展開するわけではありません。話すことは自分で選んでいいのです。また、相手はどういう反応をするのか(共感する?嘲笑する?叱る?褒める?)、それはわかりません。

\(^o^)/モデルは言えても話せない!という学習者の叫びに対応しましょう。

では、発展の際にどういう活動が入れられるのか考えてみましょう。

単純にこの絵のように、一部空欄にして自由に言わせる方法もありますが、以下のようなやり方もあります。

・ロールカードを与えて、ロールプレイをする。

各自がロールカードに書いてある指示にしたがって、会話をする活動です。自分が言いたいことを、伝えられるようになります。また、話者の間に情報差があるので相手がどう言ってくるか、実際に会話をして合わせていかなければなりません。会話の終わり方もなあなあにしないように注意したいですね。

・練習問題の会話の前後を考えて、会話を続ける。

5W1Hを意識させて、話を掘り下げていけるようにします。話を上手に膨らませたり、相手の反応をみて、話していけるようにしたいですね。自分の話につなげていくのもアリでしょう。

・会話に分岐点を設ける。

例えば、「誘う」会話で、応じる・断わるといった分岐点があるものです。相手の反応を見て、どうするか次の一手を切り出します。ある程度、展開も予測できるので、難しくはないですが、結構いじわるなことをしてくる相手もいます(笑)

・場面や登場人物を変える。

上下関係や親疎関係を持たせて、文体や表現を変えながら話せるようにしていきます。内容は同じでも、相手によって対応を変えられることは、結構重要です。

・コミュニケーションストラテジーに触れる。

会話が上手くできない場合に、どういう対処ができるかを盛り込みます。わからない言葉が出たら言い換えてもらう、言われたことを聞き返して確認する、聞き取れなかったところをもう一度言ってもらうようお願いする等です。

一度の談話練習で、上記を全て盛り込むことは不可能ですし、必要ありませんし、時間もありません。練習Cの内容によっても、発展的な活動も限られてくるので、どれが使えるか考えてみてください。


6)発表・フィードバック

最後にモデル以上のいい会話を皆で確認し、「そういうのも言えるな~」と思わせましょう。決まったペアの自薦・他薦は問いません。いなければ、1人指名して、その人に相手役を選んでもらって発表というのもいいと思います。

以前、「発表中の会話を聞かない人がいる」ということを聞きました。それをなくすために、必ず会話を聞いてもらい、内容確認の質問をしてみましょう。上記の例では、「何をし忘れましたか」「2人はこのあとどうしますか」などの質問をしました。

また、フィードバックも教師からだけでなく、学習者から上げてもらってもいですね。良いところ、わからなかったところ、内容への感想など。細かい文法のミスよりも、会話として成立しているかも大切ですね。


★発展のさせかたの例(第38課の練習C2)

わたしが模擬授業として行ったものをご紹介します。第38課の「~のを忘れました」の回で、会社帰りにやり忘れたことを思い出し、忘れた本人が会社へ戻るというのがモデル会話です。

まず、2つの展開パターンを提示し、そのとき何と言ったらいいか、答えてもらいました。「相手が一緒に戻ってくれるパターン」と「やり忘れたことが大変だからお願いするパターン」です。特に後者の場合は、お願いしたあとに分岐が生じます。軽く確認します。

次に、忘れたことが書いてあるカードを配ります。カードは練習Cに出てくるキューを3枚と、新しいキュー3枚と、自分で考える白紙カード2枚にしました。(実際に先生方にやってもらうと、白紙カードは難しかったとのことです。白紙カードの内容は事前にペアで書いたほうが良さそうです。(^_^;))

<忘れたことカード>
A:机の鍵をかけませんでした。
B:引き出しに書類をしまいませんでした。
C:パソコンの電源を切りませんでした。
D:資料を1000枚コピーしませんでした。
E:お金を金庫に入れませんでした。
F:今日、ベトナムにカタログを200冊送りませんでした。
G:(自分で考える)
H:(自分で考える)

カードを取って、忘れたことを見て、カードは置かせます(読ませないため)。そして、忘れたことを思い出して、会話を展開させます。相手役も反応をどうするか自分で選ぶように指示しておきます。この会話は終わらせ方は、一緒に行くか、別れるかだけなので、会話を収束させやすいですね。

ペア練習で慣れたあと、カードを数枚持って、いろいろな人と話す練習に移ります。ペア練習だけだと、毎回好きな展開でしか練習しない可能性があります。相手を変えることで、反応が予測できないので、より自然な会話に近づけて練習することができます。

できるだけ、話す回数を増やしたいと思って作りました。多人数クラスでも、限られた時間で発話量は増えるやり方かな~と思います。

「使える」を実感してもらう

談話練習の目的は最初に書いた通り「文脈の中で使えるようになる」ことです。

話すところをメインにしていますが、聞いてわかるというところも含まれています。会話では「話す」と「聞く」は同時に必要な技能ですよね。

私自身、少し前まではそんなに練習Cをうまく使えていなかったと思います。文字化しないと理解させられないと思っていたときもありましたが、「文字にして、果たして話せると言えるのか」という疑問もありました。いろいろな方法を知っていくうちに、話す方向に近づいていけたという感じです。

目的を見失わずに、授業をやりましょう。学習者が授業後に「話せた!」と感じられるようにしたいですね!( ̄▽ ̄)