語末に「ない」がつく形容詞
否定の意味ではなく、語末に「ない」がつく形容詞は何があるでしょうか。学習者に聞かれたことがあります。『みんなの日本語』で探すと、以下の語が挙げられます。
「つまらない」「あぶない」「きたない」「すくない」
もう一つ、言うならば…「ない」です。
イ形容詞の否定表現+「~そう」(様態)
上記の学習者からの質問は、様態の「~そう」を教えていたときにありました。
a. あのケーキはおいしそうです。
b. このケーキはおいしくなさそうです。
教科書によっては、bのパターンが出てこないと思いますが、わりとよく使いますよね。「おいしい」の場合は、語末の「い」をとって、「おいし」+「そう」となります。ですが、「おいしくない」の場合は、「おいしく」のあとに、「~なさそう」をつけるようですね。教えないため、あまり形の作り方のルールが本に載っていませんね…。
なお、「おいしそうじゃないです」という言い方も可能です。こっちのほうがルールが単純なので、教えやすいでしょう。ただ、ニュアンスは若干異なります。
否定の意味ではないけれど、語末に「ない」がつく形容詞
冒頭であげた「つまらない」「あぶない」「きたない」「すくない」に戻ります。『みんなの日本語』には「つまらない」が出ていて、以下の例文eのようになっています。
c. (B級映画のポスターを見て)あの映画はつまらなそうです。
d. でも、こっちの映画はつまらなくなさそうです。
否定表現ではないので、「つまらない」の「い」を取って、「つまらな+そう」となります。通常のイ形容詞のルールと同じですね。「つまらなくない」にした場合も、問題ないですね。
まとめ:イ形容詞+様態「~そう」のルール
「Aい」 → 肯定 → 「い」をとる → 「A+そう」
「Aい」 → 否定 → 「Aく」の形 → 「Aく+なさそう」
「Vない」+「そう」=?
動詞の場合も見ておきましょう。窓の外を見ています。
e. 風が強いから、いまにも看板が倒れそうだ。
f. しっかり固定してあるから、看板は倒れそう{も・に・にも}ない。
g. しっかり固定してあるから、看板は倒れなそうだ。
h. しっかり固定してあるから、看板は倒れなさそうだ。
gは特に問題ありません。f~hの表現も正解です。私が今まで見た教科書では、否定にする場合、よく登場していたのは、fのパターンが多かったと思います。助詞がいろいろあってわかりにくいんですが、「どれか1つのパターンをまず覚えよう」と言い、「~そうもない」の形にして教えていました。
gとhについては、最近はhのように「さ」を入れる傾向にあるようです。私自身、この部分に関しては揺れがあります。正直どっちも使っていると思います。みなさんはいかがですか。
ここで、動詞「ある」の否定形「ない」について見てみましょう。性質は形容詞と同じで、なんとなく厄介です。実際に例を見てみましょう。
i. 服も靴もボロボロだから、あの人はお金がなさそうだ。
j. 木しか見えない。あんな山奥に、人家なんてなさそうだ。
「ない」はgとhと同列に考えることができません。「ない」の場合、「お金がなそう」とは言えないからです。こちらは「さ」が入ったわけではないんです。動詞ですが、例外と言えるでしょう。やっぱり動詞の活用形とは言え、形容詞っぽいですね。
「つまらなそう」か「つまらなさそう」か
動詞については、「最近「さ」を入れる傾向にある」と言いましたが、形容詞のルール「Aく+なさそう」に近づいているからかもしれません。
気になるのが1点。「つまらない」に関しては、「さ」入れが許容されるように感じます。他の語末に「ない」がつく形容詞「少ない」「危ない」「汚い」では、「さ」入れはできません。
c. (B級映画のポスターを見て)あの映画はつまらなそうです。
k. (B級映画のポスターを見て)あの映画はつまらなさそうです。
語源に関わることだと思います。形容詞として「つまらない」を見ていますが、もともとは動詞「つまる」の否定形ですよね。だから、「さ」入れもこれだけは可能なのでしょう。