にほんごぱーく NIHONGO PARK

日本語の教え方・授業アイデア・日本語教師の戯れ…(^o^)

歯科医院における「あいてください」

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歯医者で言われたこと

患者の口は勝手に開くのか?

だいぶ前から歯科医院で聞くようになった謎日本語があります。2015年以降、歯医者に行くたびに聞くようになった気がします。(ただし、 わたしは病院にほとんどかかったことがない、また、2010~2015年まで海外にいたので、時期については不明)

歯科医・歯科衛生士:(口を)あいてください。(^o^)
( ̄▽ ̄;) えっ、わたし、意志があるのに?!

開けるように指示・依頼をするなら、意志動詞の「開ける」を使って「開けてください」でOK。しかし、わざわざ無意志動詞の「開く(あく)」を使っている…謎。

以前は電車の車内アナウンスで「扉が閉まります」と言われていました。「扉が勝手に閉まるなんて、おかしい!」という指摘(?)を聞いたこともありました。「閉まる」は無意志動詞。実際は車掌が開閉ボタンを操作しているから「ドアを閉める」、つまり、意志動詞が適切だということです。だからなのか、最近では「ドアを閉めま~す」と言っているのを聞くことも増えましたね。

それと逆をいくような歯科医院の現象は不思議…。以前の歯医者、新しく行った歯医者のどちらでも「あいてください」を聞いたので、どうして?!と思いました。

意志動詞・無意志動詞と「~てください」

せっかくなので、ちょっとだけ考えてみました。

先ほども述べましたが、指示や依頼であれば、「意志動詞+てください」を使いますね。例えば、「パスポートを見せてください」、「晩ごはんを作ってください」、「ここでジャンプしてください」、「すみませんが、暑いので、窓を開けてください」など。

「無意志動詞+てください」も使うことは可能ですが、その場合は指示や依頼ではなく、願望を表します。花に向かって「明日までに咲いてください(咲いて)」、空に向かって「雨よ、降ってください(降れ)」、病気の先輩に「はやく元気になってください」などなど。

※「~てください」を使うとやや違和感があります。命令的な言い方に変えれば、落ち着きます。

「開く(あく)」「閉まる」でちょっと考えてみましょう。ホラー映画で聞きそうです。

「(;´Д`)ねえ、なんでドアが開かないの?(ガチャガチャ)開いてよ!(バンバン)」と叫んで、ドアをガンッと蹴る…みたいなときには、「あいて(ください)」が使えそうです。また、ゾンビに襲われそうになって、ドアのところで一騎打ちになったときに、鍵を頑張ってかけようとして、「閉まって~!」と叫ぶことも可能です。ですから、「あく」「しまる」も使用は可能です。(いずれにしても願望です)

文法的な問題ではなく、表現の強弱の問題か

「意志動詞+てください」と「無意志動詞+てください」がわかったところで、話を戻しましょう。

「無意志動詞+てください」が願望なら、「あいてください」も願望ということになります。分析すればそうなりますが、それが実際の使用状況に当てはめると、「願望なの?」という疑問が生じます。しっくりきませんね。

歯科医・歯科衛生士が、「~てください」を使うと、患者に対して命令的な意味が強く響いてしまうと思っているのではないでしょうか。「無意志動詞」と「~てください」をミックスさせれば、柔らかくなると考え、その結果、「あいてください」になったと推察します。

「無意志動詞」は、そこに意志がない=自然とそうなる種類の動詞です。「~てください」と一緒に使えば、動作を強いる感じが半減するということなのかもしれません。(書いている私自身はピンときませんけど…(笑))

(^o^) あいてくださ~い。(開けてくださいって命令っぽいから)
( ̄□ ̄;) んー、わたしが開けたんだけどな…。

敬語で「口を開けていただけますか」だと、丁寧だし強くはないからいいと思いますが、堅苦しいのかな。ま~、歯科医院には子どもも来ますし、汎用性は低いから仕方がないですね。

終わりに

一応、分析として「意志・無意志動詞+てください」でも考えてみました。ただ、歯科医院の方々はそういう観点で使っているわけではないでしょう。「あいてください」は「あけてください」を柔らかく言いたいだけ、というのがわたしの結論です。

しかしながら、その柔らかさって必要なのでしょうか。施術・処置中なら、どう考えても、医者が主導なわけで、患者は指示に従うまでだと思うのです。

お客様第一の考えなのでしょう。病院・役所・お店…どこに行っても、とても丁寧で優しい言葉で話しかけられます。それがやや過剰になってきていないかなと感じています。

これ以上、深入りしませんけど、「『口を』あいてくださ~い」という明らかな誤用もありました。また、「~てください」を回避する表現もありました。別の方に処置していただいたときには、「じゃ、すみませーん」と言われました(笑)。こっちのがいいかも!?( ̄▽ ̄)

追記(2019.9.26)

最初から調べておけばいいものを…と今更ながら思いましたが、辞書をいくつか確認したところ、「あく」の項に他動詞と書いてありました。手近な3冊にしてみましたが、どの辞書にも載っていました。(゜o゜;)正直、驚きました。

特に『明鏡国語辞典』では、用例に「あいてください」がありました。(^_^;)言えるんですね…。一応、語法では誤用という説もあるということが書かれています。

『大辞林4.0』 (三省堂)

あく【開く・空く・明く】
一(自動詞) ①~⑩ (省略します)
二(他動詞) (自分の目や口を)あける。ひらく。「口を-・く」

『三省堂国語辞典 第七版』

あく【開く】
一(自五) ①~⑦ (省略します)
ニ(他五) 〔自然に〕あける。「口を-・目を-」

『明鏡国語辞典 第二版』 (大修館書店)

あく【開く・空く・明く】
一(自五) (1)~(10) (省略します)
二(他五) 【開】〔俗〕口や目を開ける。「大きく口を-・いてください」「薄目を-・いて眠る」
[語法] 「開く」を他動詞に使うのは誤用ともいう。

古くは遡ると、「ロドリゲス日本大文典」に載っているそうです。 『精選版 日本国語大辞典』 小学館

あく【明・開・空】
一 (省略します)
ニ(他カ五(四)) ふさいでいるものや閉じているものなどを開く。
 *ロドリゲス日本大文典(1604-08) 「メヲ aqumoアクモ フサグモ コチノ ママデ アル」

ただ、今回は自動詞か他動詞かではなく、意志か無意志か、ということを忘れないことが重要です。『三省堂国語辞典』では、「自然に」と併記されています。他動詞とはいえ、意志性はやや低いことを表していそうです。『明鏡』の用例も「薄目をあいて眠る」も同様に思えます。

コメントでもご指摘いただきましたが、方言というのもありえます。わたしが数回聞いただけのことなので、用例をもっと集めてみないと結論は出せないですね。もともとの言い方、方言、やわらかさ…どれなんでしょうね。(^o^)